はじめに

「転職したいとは思っているけど、どこに行けばいいのかわからない」 「自分に何が向いているのか、いまだに答えが出ない」

そんな悩みを抱えたまま、時間だけが過ぎていく——そういう方のご相談を、私はコーチとしてたくさん受けてきました。

そのきっかけのひとつとして、ストレングスファインダー(CliftonStrengths)を受けてみようと考える方も増えています。でも、「結果は出たけど、どう使えばいいかわからない」「診断したのに何も変わらなかった」という状態になってしまうケースが後を絶ちません。

この記事では、ストレングスファインダーを転職・キャリアの決断に活かすための正しいプロセスと、多くの方がはまりやすい誤解についてお伝えします。コーチングの現場で実際に起きたエピソードも交えながら、具体的に解説します。


「ストレングスファインダーで適職がわかる」は本当か

転職を迷う人のイメージ

まず最初に、もっとも重要なことをお伝えします。

ストレングスファインダーは「適職診断ツール」ではありません。

「戦略性が1位だからコンサルタントが向いている」「共感性があるから人を助ける仕事に就くべき」という発想は、ストレングスファインダーの本質的な使い方とズレています。

ストレングスファインダーが明らかにするのは「資質」——あなたが自然にできること、自然に出てくる思考・行動パターンのことです。資質は職業と1対1で対応するものではなく、同じ資質を持つ人でも、活かし方によってさまざまな職業で成果を出しています。

にもかかわらず、「この資質だから、この職業が向いている」と結論を出そうとする人が多いのはなぜでしょうか。

理由のひとつは、転職を迷っているときほど「答えを早く出したい」という焦りがあるからです。不安なとき、私たちは無意識に「正解を教えてくれるもの」を求めます。診断ツールに「正解」を投影してしまうのは、ある意味で自然な心理です。でも、その使い方では転職の軸は作れません。

転職の軸には、「資質」だけでなく「価値観」——自分が人生の中で何を大切にしたいか、どうありたいか——が揃って初めて意味を持ちます。この2つが組み合わさって初めて、「自分らしいキャリアの軸」が形成されるのです。


コーチングの現場で見た「よくある落とし穴」

実際に相談される方の中に、こんな方がいました。

ストレングスファインダーを受けて、自分の資質をChatGPTに入力した。すると「あなたに向いている職業はこれです」という回答が出た。それを持って「どうしたらいいですか」と相談に来てくれたのです。

これについて「AIを使ったこと自体は、とても良い試みです」というのが私の考えです。ただ、問題は「職業という答えを求めたこと」でした。

資質の理解を深めるためにAIを使うのは、むしろおすすめの方法です。「この資質が自分に現れているとき、どんな状況が多い?」「この資質の強みと限界点を教えて」と対話するなら、非常に有益な使い方になります。でも「適職を教えて」と聞いても、それはストレングスファインダーが本来教えてくれることではありません。

このクライアントの方が陥ったのは、「資質 → 職業」という直線的な発想です。転職の軸は、そういう短絡的なルートでは作れないのです。

もうひとつよく見るパターンが、「診断結果を読んで終わり」です。「戦略性が1位か、へえ」で止まってしまい、資質名を知っているだけで自分のこととして実感が持てていない。この状態を私は「腑に落ちていない状態」と呼んでいます。

腑に落ちた状態とは、「確かに自分はいつもこうやって考えていた」と、過去の経験や行動と結びついている状態です。「プロジェクトの進め方を考える時、いくつかのルート・筋道がぱっと思いつく、それを描きたくなるのは、戦略性が出ているからなのか」という気づきが生まれて初めて、資質は自分の"説明"として機能し始めます。

「診断したけど何も変わらない」という感想を持つ方の多くは、この「腑に落とす」プロセスを経ずに先へ進もうとしています。そこに最初のつまずきがあります。


転職の軸を作る4つのステップ

コーチと一緒にキャリアを考えるイメージ

では、ストレングスファインダーをキャリアの決断に活かすには、どんなプロセスを踏めばいいでしょうか。私がクライアントと一緒に進めているプロセスをご紹介します。

STEP 0:アセスメントを受ける

ストレングスファインダーをまだ受けていない方は、まずここからスタートです。Gallup公式サイトでアクセスコードを購入し、オンラインで受検します。TOP5だけでなく、全34資質のレポートを取得することをおすすめします。TOP5の外にも、あなたの思考や行動を理解する大切な手がかりがあります。

STEP 1:資質を「腑に落とす」

結果を受け取ったら、すぐに「どう使うか」に進まないでください。まず、自分の資質と過去の経験・行動を結びつける作業をします。

「この資質が高い自分は、どんな場面でこれが出ていたか?」「うまくいかなかったとき、この資質はどう関係していたか?」を丁寧に振り返ります。このプロセスに十分な時間をかけることが、後々の軸づくりに直結します。焦らずここに時間を使ってください。

STEP 2:価値観と資質を行き来する

資質の理解が深まってきたら、価値観——「自分は何を大切にしたいか」「どんな状態でいたいか」——との対話を始めます。

重要なのは、「価値観を先に決めてから資質を考える」という順番は必須ではない、ということです。資質を深く理解する中で価値観が明確になることもあれば、価値観を探る中で資質の活かし方が見えてくることもあります。どちらが先でも構いません。行き来しながら、少しずつ解像度を上げていくイメージで進めましょう。

STEP 3:「どう使うか」を多角的に考える

資質と価値観の理解が一定の深さに達したら、「自分の資質をどう仕事に活かすか」を考えるフェーズに入ります。このとき、一つのやり方に縛られないことが大切です。

  • AIと対話する: 資質名をもとに特性や活かし方を一緒に考えてもらう。ただし、「適職を教えて」ではなく「この資質が活きる場面を教えて」と聞く
  • 信頼できる人にフィードバックをもらう: 自分をよく知る人から「あなたのこういう部分がよく出ている」という客観的な視点をもらう
  • 日々の仕事で観察する: 「今日の仕事のどこで自分の資質が出たか」を振り返る小さな習慣をつける
  • コーチと一緒に考える: 一人では気づきにくい資質の組み合わせや、活かし方の盲点を引き出してもらう

これらを複数組み合わせながら進めることで、転職の軸が少しずつ言語化されていきます。


やってはいけない使い方——焦りが生む3つの落とし穴

転職を迷っているときこそ、焦りから判断を誤りやすいです。ストレングスファインダーを使う上で、特に気をつけてほしい落とし穴を3つ挙げます。

落とし穴①:「資質名を知ること」がゴールになる

診断結果のPDFを保存したまま、そこで終わっている方が少なくありません。資質名を覚えることは出発点であり、ゴールではありません。知ることの次に「腑に落とす」というステップが必要です。

落とし穴②:TOP5だけで自分の可能性を決めてしまう

「自分にはこの5つしかない」という思い込みは危険です。資質はあくまで傾向であり、TOP5以外の資質も状況によっては大きく機能します。また、診断結果はあなたの「現在地」の一側面を示すものであり、すべての可能性を規定するものではありません。

落とし穴③:「資質 → 職業」の直線的な答えを求める

これが最も多いパターンです。「この資質だから○○が向いている」という発想から離れることが、正しい使い方への第一歩です。ストレングスファインダーは職業を決めるツールではなく、自分の資質をどう仕事に活かすかを考えるためのツールです。


まとめ

ストレングスファインダーは、転職・キャリアの「軸」を作るための強力なツールです。ただし、それは「適職を教えてくれるツール」ではなく、「自分の資質と価値観を理解し、それをどう仕事に活かすかを考えるためのツール」です。

「腑に落とす」→「価値観と行き来する」→「多角的に活かし方を考える」というプロセスを丁寧に踏むことで、初めて転職の軸が形成されます。このプロセスには時間がかかりますが、それが「自分らしいキャリア」へとつながる道です。

一人でこのプロセスを進めるのが難しいと感じたら、コーチと一緒に取り組む選択肢もあります。Strengths Compassでは、ストレングスファインダーを活用したキャリアコーチングの無料相談を受け付けています。「何から始めればいいかわからない」という段階からでも大丈夫です。まずは気軽にお話しませんか。