はじめに

「今の仕事、なんかやりがいがないんですよね」

キャリア相談でこの言葉を聞くのは珍しくありません。

そしてその次に続くのが、「だから転職を考えています」という話です。

気持ちはよくわかります。

今いる環境を変えれば、何か新しい充実感が生まれるかもしれない ——そう思うのは自然なことです。

でも少し立ち止まって考えてほしいのは、

「やりがいは転職先にあるもの」

という前提が本当に正しいのか、ということです。

転職後に「後悔・失敗した」と答えた人は**59.7%**にのぼるという調査があります(HRzine/識学調査)。

その後悔の中には、 「組織風土が合わなかった」 「やりがいや成長環境の謳い文句と実態が違った」 という声が少なくありません。

せっかく思い切って動き出して、書類準備や面接にエネルギーをかけてきたのに、 転職後にまたすぐに転職したくなる というのはもったいないですよね。

この記事では、人事の現場とコーチングの現場の両方を見てきた経験をもとに、 やりがいの正体と、それを転職につなげるための正しい順序をお伝えします。


やりがいを「見つけるもの」と思っているうちは、転職しても変わらない

「やりがいのある仕事に就きたい」 という言葉を聞くとき、私がまずお聞きしたいのは

「あなたにとって、やりがいとは何ですか?」

という問いです。

意外に思われるかもしれませんが、この問いに明確に答えられる人はそれほど多くありません。

「やりがい」という言葉はよく使われるので、 やりがいは、、、やりがいだよ! とその言葉のままだと思う人も多いかもしれません。

でも、あらためて考えてみてださい。

多くの場合、やりがいは

「社会的に意義がありそうな仕事」 「規模の大きいプロジェクト」 「誰もが知っている会社で働く」

などのイメージで使われます。

つまり、「外から見た」仕事の印象、「自分ではない他人が感じるであろう」印象 もしくは「仕事の特性、属性」 という解釈になっていませんか?

やりがいは「仕事の属性」ではなく、「自分とその仕事の関係性」から生まれるものです。

同じ仕事をしていても、やりがいを感じる人とそうでない人がいます。

社会貢献性の高い仕事でも消耗していく人がいる一方、地味に見える業務でも深くのめり込んでいく人がいる。

この差はどこから来るのでしょうか。

また、やりがいを「給料」と結びつけてしまうケースも危険です。

給与が高い会社への転職は、入社直後のモチベーションにはなります。

しかし人間はその環境・報酬に慣れていきます。 慣れてしまったあとに「仕事自体が面白いか」という問いが残ったとき、そこに答えがないと、給料だけを見て転職したことへの後悔が始まります。

転職動向調査2025年版(マイナビキャリアリサーチLab)によれば、

転職理由の1位は「給与が低かった」(25.5%)、2位は「仕事内容への不満」(21.0%)です。

給与改善を求めて動いた人が多い一方で、転職後の後悔理由にも「やりがい・成長環境のギャップ」が上位に入ります。

給料を上げても解決しない問題が、そこにあります。


転職とやりがいのミスマッチ

人事として見てきた、やりがいのミスマッチが起きる現場

キャリア相談を受けてきた中で、やりがいに関するミスマッチのパターンはいくつかあります。

一番多いのは、 「自分のやりたいことと違ってもやもやしている」 「この仕事が自分に合っていないと感じる」

やりがいは一定ではありません。

3〜5年のスパンで変化することもありますし、単純な疲労や人間関係のストレスで一時的に低下することもあります。

「最近仕事がつまらない」という感覚を、「この仕事は自分向きではない」というシグナルと早合点して転職を決断してしまうと、新しい職場でも同じ状態に陥りやすくなります。

もう一つよくあるのが、価値観の言語化ができていないケースです。

転職エージェントやコーチングの現場でも知られていることですが、求職者が「価値観に合う会社に行きたい」と言うとき、 その価値観が「真面目に働く」「コミュニケーションを大事にする」といった抽象的なものにとどまっていることが多い。

これでは実際の会社選びに使えません。

日本の人事部(jinjibu.jp)に掲載されている事例でも、 人材紹介アドバイザーが求職者の「価値観」を掘り下げずに紹介を進めたことで、内定後にミスマッチが発覚するケースが紹介されています。

「働きやすさ重視」と思って紹介したら、実はその人が求めていたのは「やりがい」だったというすれ違いです。

「やりがい」という言葉は共通語のように見えて、中身は人によって全く違います。

社会貢献でやりがいを感じる人もいれば、上司から評価されることでやりがいを感じる人もいる。

誰かの役に立てていると感じるとき、あるいは自分の裁量で動けるときに充実感を覚える人もいる。

この「やりがいの源泉」を自分自身で理解していないまま転職先を探しても、ミスマッチを繰り返す可能性が高いのです。


やりがいの正体は「エンゲージメント」、そしてそれを高めるのが「強み」

では、やりがいとは何なのか。

私はこれを「エンゲージメントの高い状態」だと考えています。

エンゲージメントが高い仕事とは、こういう状態です。

自分でやり方を考えて、自分に合ったアプローチで仕事に取り組む。それが成果につながる。 次はもっとこうできると思い、さらに前に進みたくなる。自分にできることが増えていく感覚——いわゆる自己効力感が高まっていく状態。 この好循環こそが、やりがいの正体です。

そしてこの好循環を生み出すカギが、自分の「強み」をどう使うかです。

StrengthsFinder(クリフトンストレングス)を受けたことがある方はイメージしやすいかもしれません。

才能・資質とは「自然にできること」「自然な考え方や行動パターン」のことです。

これにスキルや知識を掛け合わせ、何度も使ってみる、 そして自分なりの勝ちパターンを作ると、それが「強み」になります。

この強みを使って仕事を進めると何が起きるか。

「これが自分のやり方だ」という感覚が生まれます。

自分のやり方が確立されて仕事が回っていく感覚が得られると、 エンゲージメントは非常に高くなります。

そして成功体験が積み重なることで、強みはさらに洗練されていきます。

強みはブラッシュアップできるものなのです。

やりがいとは「見つけるもの」ではなく、「強みを使って仕事を回していく中で生まれるもの」です。

「自分の強みを使って仕事ができている」という感覚は、 外から与えられるものではありません。

自分が自然にやっていることを意識化し、それをどう仕事に活かすかを考えていく、その過程から育ちます。


強みとエンゲージメントのサイクル

転職先を選ぶときに本当に確認すべき2つのこと

ここまでの話を踏まえると、転職先を選ぶうえで確認すべきことが見えてきます。ポイントは2つです。

① 自分の価値観と合う会社かどうか

ここでいう価値観とは、 「何をしているときに充実感を覚えるか」 「どんな状態を心地よいと感じるか」という、具体的で個人的なものです。

「社会貢献がしたい」ではなく、

「誰かの困りごとを直接解決する場面に関わりたい」 「自分の提案が形になっていく過程を感じられる仕事がしたい」 というレベルまで落とし込んだり、自分のいままでの経験から

「こういう状況でこのような判断をする」という具体的なものをもっていると、 企業・職種選びで使える判断軸になります。

価値観が合わない環境で働くとは、自分の根っこの部分を無視した状態で仕事をすることです。

やりがいとか成長とかいう話の前に、ベースのところでずれているので、どれだけ意義のある仕事でも消耗していきます。

② 自分の強みを活かしたやり方で仕事を進められる会社かどうか

これは「自分の得意なことが活かせる仕事か」という問いよりも、少し深い確認です。 強みを使えるかどうかは、職種だけでなく、チームの動き方・意思決定のスタイル・上司との関係性にも大きく依存します。

面接では「どのように仕事を進めますか?」 「チームでの役割はどのように担いますか?」 という問いに対して、自分のやり方と会社の文化が合いそうかを見極めることが大切です。

この2つが揃う職場を選ぶことが、転職後のやりがいをつくる土台になります。

逆に言えば、この2点を確認せずに「給与」「知名度」「仕事の規模感」だけで選ぶと、数年後に「転職したのに何かが違う」という感覚に戻ってきやすくなります。


注意したいこと——やりがいは「今すぐ感じるべきもの」ではない

ここまで読んで、「じゃあ自分はまだ価値観も強みも整理できていないから転職できない」 と感じた方がいるかもしれません。

それは少し違います。

やりがいは、入社初日から感じられるものではありません。 強みを使える場を探りながら、仕事のやり方を自分なりに確立していく中で、じわじわと育つものです。

また、新しい環境では最初は「慣れる」「覚える」という段階が続きます。

この時期にやりがいを感じられないからといって、また転職を考えてしまうのは早計かもしれません。

”自分の価値観と合っていて、強みを使えそうな環境であれば、しばらく腰を据えてみることも大切です”

もう一つ注意したいのは、「やりがいがない」という感覚の原因が、仕事の内容ではなく職場の人間関係や疲労にある場合です。

このケースは、転職よりも先に現状の職場環境の問題を整理することが先決になります。 転職という手段を取る前に、「今感じていることの本当の原因は何か」を一度冷静に棚卸しすることをお勧めします。

やりがいが育つには、ちゃんとした土台(価値観の一致)と素材(強みを使える仕事)が必要です。 転職はその土台と素材を変える手段にすぎません。


まとめ

やりがいは「外から見つけるもの」ではなく、 「自分の価値観に合った環境で、強みを使って仕事を進める中から育つもの」です。

転職を考えるなら、まず「自分の価値観の言語化」と「強みの棚卸し」を先にやる。 その上で「この会社・この仕事は、自分のやり方でやっていけそうか」を確認する。

この順序を守るだけで、転職後のミスマッチをぐっと減らすことができます。

「自分の価値観も強みも、うまく言葉にできない」という方は、一度コーチングセッションで一緒に整理してみませんか。話すことで見えてくることが、必ずあります。

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参考文献